呼吸のように・・・

俳句のエッセー

2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

残る鴨

山道の途中からは、まだ雪が残されていた。沿道の家の犬に、激しく吠えたてられながら、 ずるずると雪に足を取られつつ、 更に奥へ入っていった。雪の上に木の葉が落ちて、雪がそこだけ窪んでいる。 素十の句を思い浮かべながら、雪をまた、踏みしめて行く。…

春昼

今日は、寝違えたのか、首が回らなかった。 一日、不調。朝から、早く休もうと決心していた。笹鳴きが近くても、首が言うことを聞かないので、顔を上げられない。 後ろから物音がしても、身体ごと向けなければならない。 不自由なことだった。ただでさえ、う…

新社員

社会人になって初めての仕事は、病院の栄養士だった。短大出たてのぺーパー栄養士が、まともにこなせる仕事など、一つもない。厨房は時間との戦いでもあり、火も使う、包丁も使う、危険な場所だった。また献立といえば、一日三食、しかも、 糖尿病、心臓病、…

受難節

今日は、受難節、第一主日です。主イエス・キリストが十字架に架けられ、三日目に復活される。 その復活祭(イースター)前の46日間を、受難節(レント)といいます。 受難節における最初の日曜日。 それが、今日です。人類の救いのために十字架に架かられた…

蛙のめかり時

遺跡から出土した遺物を整理するのは、かなり根気のいる仕事である。考古学調査は、物質的な視点からの歴史復元だというと、 ロマンに満ち溢れたもののようであるが、 実際は、地味な仕事の積み重ねである。職人のように、黙々とこなす。 しかし、睡魔に襲わ…

春光の海

有磯海。海浜植物園の遊歩道は、松林を通って、海岸へ出る。風に晒され、傾いだまま伸びている松の何本かは、 更に地に伏すようにして、残雪に覆われていた。松を襲うのは、風だけではないことがわかる。冬の間は、閉ざされていた松林にも、 今は潮風がやわ…

春眠

知人の中国人医師、K先生。日本では、伝統医学をなさっている。日本語がお上手、と言うのも憚られるほど、日本人と変わらない。 いや、美しい日本語と言えば、日本人以上である。いつぞやは、ポツリと 「横殴りの雨だねぇ。」 と、呟いているのを聞いた。そ…

残雪

すっかり春の日差しである。紫外線が気になる季節。 そろそろ、どこかへ出かけたくなる日が多くなってきた。日向には、雪もすっかりなくなってしまい、 ブーツを靴に履き替え、今日は、上機嫌で出かけた。まぶしい日差しに目を細めつつも、 解放感あふれる青…

花粉症

山道を抜けると渋滞に巻き込まれないので、 通勤に使っていた。この季節になると、杉木立がオレンジ色に染まって見える。花粉だ。サングラスにマスクという怪しげなドライバーにすれ違うが、 単なる花粉症であって、不審者ではない。私の症状は、年々悪化し…

蜆汁

母が肝臓を患った時、来る日も来る日も、蜆汁を作った。蜆の貝殻は、乾燥させ、庭に撒いた。 籠一杯の貝殻も、撒けばそれほどではない。黒い土の上で、貝殻は蝶蝶のように、可憐で美しい。 その貝殻が化石と呼ばれるようになって、土の中から発見される。 貝…

氷柱

思いの外、いいお天気だった。教会の庭は、それでも雪で埋まっていて、 木々の背は、皆、低くなったようだった。 (おもしろい!)気温は、低いままだった。回廊を渡っていくと、ちょうど入口の軒に氷柱が下がっていた。 小さい氷柱が、にょきにょきと天地を逆…

冴返る

大変な寒い夜となった。雪がまっすぐに降り続いている。一日、何度も雪掻きをしたが、気温が上がっていない。 粉雪だ。事故などなければいいけど… あれは、2006年2月3日 北陸道61台玉突き事故…私はその中にいた。高速道路ではありえないことに、車がひっそり…

新入生

金沢の友人が、名古屋へ引っ越すことになったらしい。ご主人の転勤というが、子どもたちも名古屋にいることだし、 彼女にとってはいいことなのだろう、と思う。しかし、遠くに行ってしまうと思うと、寂しい…勝手なもので、近くにいる間はいつでも会えると思…

大試験

誰でも経験しているであろう。苦い思い出。私にもある。 入学試験。十分な準備もできず、また、不吉な夢を何度も見たのに、 私は出掛けて行った。結果は、案の定、惨敗だった。それから試験の夢にうなされるようになった。書き上げた答案に何度も後悔した。 …

大試験 その2

さて、「大試験」。歳時記には、「卒業試験」「入学試験」「受験」「受験生」…など、いろいろある。 昔は学期試験を小試験といい、学年試験、卒業試験を大試験といった。 いまでは主として入学試験をさして言う。 (『風俳句歳時記』沢木欣一編 平成八年)と…

大試験 その1

入学試験の朝。ホテルのフロントで、チェックアウトのための列についていた。すると、結構強く、肩を二度叩かれて、振り向いた。「すみません。落ちましたよ。」「あ」ハンドタオルが足元にあった。 縁起でもないことを言ったその紳士に礼を言い、 試験会場…

ラヴィアンローズ

本が届いた。佐藤尚夫先生の第一句集「薔薇」。薔薇…なんと瑞々しい響きであろうか。医師である佐藤先生は、昭和のはじめのお生まれ。 燻し銀の響きのあるタイトルをイメージしていた。 それは、見事に裏切られた。…いい意味で。いつまでも若々しくあられる…

父のバレンタインデー

私の父は、百貨店に勤務していた。さすが圧倒的に女性多数の職場。 毎年、父に贈られるチョコレートは、夥しい数だった。ホワイトデーのお返しも気前がよかったためか、 チョコの数は、毎年、増える一方だった。退職してからは、さすがに少なくなったものの…

春の灯

趣味は何ですか、と尋ねられれば、「俳句」と答えていた。しかし、俳句も趣味の域を超えたようなので、 最近は、「コーヒー」と答えたりしている。コーヒーは大好きなのだ。とはいえ、栽培したり、焙煎したりしているわけではない。 いつかは挑戦したいと思…

浅春 (風見鶏)

浅春の金沢へ、俳句会に行って来ました。私が初めて俳句らしい俳句を作ったのは、17年も前のこと。母に誘われて、俳句会に出席したのですが、 その時、褒められた句が、神戸の風見鶏を詠んだものでした。神戸の異人館、風見鶏の館に、閉館ぎりぎりに駆け込み…

うかれ猫

春の雪は、淡く儚いものであるが、思わず大雪になることもある。ここしばらく、そのような雪の日が続いた。見ると、まっさらな雪の面に、 小さな丸っこい足跡が、家から家へと続いていた。猫だ。猫と言えば、寒さに弱く、「こたつで丸くなる」イメージだが、…

バレンタインデー

一日の終わりに、甘いものが食べたい…と思って、 通りすがりのお店でチョコレートケーキを買った。家に戻り、いざ、食べよう!としたところ、 真中に、真っ赤なハートの装飾が突き刺さっていることに気付いた。あ、バレンタインデー…バレンタインデー用のケ…

春吹雪

ちょっと、外出した。いいお天気だったので、フード付きのジャケットを着て、 傘も持たずにお散歩気分で田舎道を歩いた。ところが、雪がちらついてきたかと思うと、にわかに吹雪になった。春の雪は湿っぽく、ジャケットに容赦なくくっつく。 フードは風で脱…

春の星

教会の祈祷会へ行って来た。毎週、水曜日の夜7時30分から、神学の本を読み、そしてお祈りする。私たちは罪深き者だけれども、その罪はすでに、 主イエス・キリストの十字架によって赦されている。けれども、罪の赦しを信じきれない自分がいる。 また、罪を重…

伊予柑

母の従兄にあたる方から伊予柑が届いた。両手にもおさまらない程の大きな伊予柑が、箱一杯に詰められている。緋色がまぶしいほどだ。 縄文や弥生式土器を成形し、高温で焼き上げると、 このような明るい色になる。野焼きの酸化焔による橙色である。土器ほど…

春の雨

雨の一日。今日、病院へ行って来た。3年前の今日、父が帰天した、その場所へ。東京から兄が駆けつけるのを待つ病室の窓には、 まぶしいくらいの青空が広がっていた。それでも気温は低かっただろう。 しかし、寒かったという記憶はない。病棟の廊下は、こんな…

月が出ていた

父が亡くなった時、私は驚くほど冷静だった。多分、しっかりせねば、という思いからだっただろう。それと、覚悟ができていたからかもしれない。見送りに来て下さった担当医に挨拶をして、看護師の方々とに送られて、 病院の特別な出入り口から出て行った。月…

雪掻き

今日は、久々に降雪のない一日でした。太陽が顔を出すと、気分も晴れ晴れします。日曜日ということもあり、ご近所さんは、ここぞとばかりに雪掻きをしていらっしゃいました。道路の端には、あちらこちらに雪の山が築かれていて、 それを崩しては日向に散らし…

立春

暦の上では、春になりました。まだ、雪が降っています。春の雪はしっとりと降り続き、 やわらかな音をさせて積もってゆきます。突然、目の前が淡いセピア色に変わり、雷鳴が轟きます。 どろどろと尾を引くような余韻が消え去ると、 また、しっとりと降り続く…

節分

今日は節分。冬も今日でおしまい。各地で子どもたちが、鬼の面をつけたお父さんやお母さんを追い回して、 豆をまき散らしていることでしょう。「福は内、鬼は外」と無邪気に叫んでいたのは、遠い記憶。何も考えずに大はしゃぎしていた、5歳。年の数だけ食べ…