山道の途中からは、まだ雪が残されていた。
沿道の家の犬に、激しく吠えたてられながら、
ずるずると雪に足を取られつつ、
更に奥へ入っていった。
雪の上に木の葉が落ちて、雪がそこだけ窪んでいる。
素十の句を思い浮かべながら、雪をまた、踏みしめて行く。
雪解の水音は、絶えることなく、
そこかしこに滴りが続く。
すっかり息が上がったところで、池に着いた。
池の水嵩に、倒木は短くなったようだ。
そこに、鴨が残っていた。
雄が美しい羽を繕っている。その傍で、雌がじっと動かない。
日が傾いてきたが、もう日差しは春の明るさがある。
薄雲が流れて、太陽を少し滲ませた。
雄はしきりに首振り、羽を震わせて、水を払いのけているようだった。
(もうすぐ旅立って行くのだろうね)
桜の枝は、白々と艶やかで、春が息づいているのが分かる。
池の周りの春は、地の下から沸き立ってくるようだ。
この巨大な春を、どのように掴んだらいいのか…
ただ、飲み込まれていくしかないように思う。
やがて、私の中に春が息づいてくるだろう。
その息吹が、新しい羽を与えてくれるような気がする。
大空へ舞い上がっている自分を発見できたらいいと、
そう、思う。