呼吸のように・・・

俳句のエッセー

蛙のめかり時

遺跡から出土した遺物を整理するのは、かなり根気のいる仕事である。

考古学調査は、物質的な視点からの歴史復元だというと、
ロマンに満ち溢れたもののようであるが、
実際は、地味な仕事の積み重ねである。

職人のように、黙々とこなす。
しかし、睡魔に襲われて、どうしようもない時は、気分転換も必要だろう。

何か面白い話はないものか。

出土した遺物は、正確な位置と層位を記入し、
番号を付って、遺物台帳に整理していく。

碗、皿、徳利、急須…、などといった器種も記していくことになる。

しかし、破片でしかない出土品は、ほとんどが器種の特定が難しい。
「○○か?」と疑問符付きで記していく。
割合からすると、碗と称されるものは多いようだ。

その碗である。

こともあろうに、調査室の新人A君は、石偏を月と間違えて、

「腕(うで)か?」

と記入していた。
延々と、

 腕か?腕か?腕か?腕か?…と続く。

発見した先輩のIさんは、

「びっくりした」そうだ。

どこを調査したら、こんなに腕ばっかりでてくるだろうか。

しかもA君は、自分の失敗に気付くことなく、
「腕」と書き続けてあったそうである。

この話をすると、
「そればっかりですね!」と、A君は嫌がるらしい。


これは、私の中では、笑える話のチャンピオンである。
春の午後の睡魔を吹き飛ばしてくれる。

あぁ。
A君、ごめんなさい…