山道を抜けると渋滞に巻き込まれないので、
通勤に使っていた。
この季節になると、杉木立がオレンジ色に染まって見える。
花粉だ。
サングラスにマスクという怪しげなドライバーにすれ違うが、
単なる花粉症であって、不審者ではない。
私の症状は、年々悪化し、
いよいよ薬の効力も、あまり期待できなくなった。
初めのころは、春塵がむずがゆいのだろうと思っていた。
次に、風邪をひいたかなと、思った。
皆は、花粉症だ、花粉症だと言ったが、
私は認めたくなかった。
遺跡の仕事をしていると、歴史の話題が多い。
イースター島の調査など、皆、興味深々である。
「そう、アモイ像ね。」と、私。
長身の同僚が、私を見下ろして、ふっと笑った。
「モアイ像…」
病院へ行こうと決心した事件であった。
杉花粉は、私の集中力を奪い、
ついに、記憶中枢を侵し始めたからである。