私の父は、百貨店に勤務していた。
さすが圧倒的に女性多数の職場。
毎年、父に贈られるチョコレートは、夥しい数だった。
ホワイトデーのお返しも気前がよかったためか、
チョコの数は、毎年、増える一方だった。
退職してからは、さすがに少なくなったものの、
熱心な求愛(?)者からは、厳選されたチョコが送られてきており、
それは、父が亡くなる3年前まで続いていた。
そんな父が元気だったころのこと。
その日は、朝から来客があり、私たちは慌ただしく過ごしていた。
お昼頃、一段落ついたところで、なぜか、父の機嫌がすこぶる悪い。
何?どうしたの?と気をもんでいると、
姉が、「まだチョコレート、渡してないから…」と耳打ちしてくれた。
まだ、お昼ではないか!
朝起きてすぐ、チョコをもらえないと、機嫌が悪いの?
と、私たちは呆れかえったのだった。
その後、すぐにチョコレートを渡された父は、
怒りと動揺がにじみ出た顔の表情を和らげ、
気まずそうに、
「ありがとう」と言った。
とても楽しい人だった。
そんな父が亡くなって、三度目のバレンタインデーである。
今日も生チョコとコーヒーを、皆で味わった。
チョコを忘れたことは、一度もない。
こんな娘を、父は天国で自慢しているかもしれない、と思った。