呼吸のように・・・

俳句のエッセー

小春浪

  返しては貝殻鳴らす小春浪    田島 和生

なんでもない景色に思えますが、私には不思議でした。
季節は、小春。
暖かな初冬の海のようですが、暖かと言いましても、
日本海に面した地域に住んでいる私には、
海を見にいくこともためらわれる季節ですし、
また、貝殻を鳴らすような波は、馴染みがない気がします。
私の思う小春の海は、日差しがキラキラと暖かでいて、
波は激しく、風は冷たく、
砂を抉るような、そんな光景しか思い浮かばないからです。
これは、南の海だと、そう思います。
「宮島行」の冒頭を飾る、掲句は、
宮島へ降り立った感慨が詠まれています。
小春の海、波が貝殻をカラカラと軽い音をさせては、引いていきます。
普段の生活とは違った景色を、繊細な感性で、新鮮に受け止めています。
暖かな日差しに、凛と張り詰めた思いが、
作者の芯を貫いているようです。