呼吸のように・・・

俳句のエッセー

神鹿

  臥す鹿に茣蓙を着せやる紅葉山    田島 和生
俳誌「雉」新年号より。
主宰俳句「宮島行」からの一句です。
「神鹿(しんろく)」という言葉がありますが、
これが、実際に生きている言葉だと知ったのは、宮島でした。
宮島には鹿がたくさん生息していますが、
いずれも人になじんでおり、野生とは違うようです。
神の使いとして大切にされ、人と共に生きていることがわかります。
紅葉の頃、それは、日ごとに気温が低くなっていく季節です。
夏毛も冬のそれに生変わり、脂肪を増やしている頃の鹿。
その鹿が臥している姿を不憫に思ったのでしょう。
茣蓙を着せてやったと言うのです。
神鹿としての敬い、そして、野生の動物としての思いやりが、
その行為に表れています。
もうすぐ冬がやって来る、元気ですごせよ…
そんな心の声が聞こえるようです。
宮島ならではの景色を、あたたかく捉えた一句です。