呼吸のように・・・

俳句のエッセー

風涼し (先生、叱られる)

風の会「雉」吟行会。大津。
朝、9時ホテルを出発。
バスにて堅田・浮御堂へ。総勢45名。

浮御堂では、約1時間の滞在。
千体の仏像、湖からの風、湖に立つ虚子の句碑。
何もかも素晴らしい眺めです。

そこで、T先生に出会いました。
お堂にマリア像があると言うのです。
行ってみると、十一面観音像の前に、小さな女人のような像が安置されていました。
皆、マリア像だと言っているのを聞いたそうです。

「隠れ切支丹でしょうか?」
「それにしても不思議ですね…」
などと言いながらお堂を出てきました。

入口付近に、お守りやお札などが売られている棟があります。
そこで、愛想のいいT先生は、その中の坊主頭に話しかけていらっしゃいました。

「すみません。あの中にある小さな像は、マリア像ですね」

しばらく間があって、明らかに怪訝そうに、
「…マリア像ではないですよ。ここはお寺ですから」
と、坊主頭は答えました。

「えー、マリア様みたいでしたけど」とか、何とか言って、無邪気なT先生。

ぶっきらぼうに坊主頭は、
「昨日も俳人の方が来て、同じようなことを言っていましたよ」
と言います。
「そうでしょう」と、素直に答えるT先生。

「…そうでしょう、じゃなくって、ココはお寺ですから、
 マリア像なんてあるわけないじゃないですか!」

だんだんと語気を強めて、
諭しから苛立ちへ感情が移っていくのがわかりました。

坊主頭にしてみれば、毎日毎日同じことを聞かされて、
ここにきて、いよいよブチ切れた、というところでしょうか。
間の悪かったT先生は、お気の毒でした。
「あ…」
といった顔で、言葉のないT先生。

確かに、教会で、「あの像は、お釈迦様ですか?」
と尋ねられたら、どうしていいか分からなくなります。
坊主頭の気持ちも、分からなくもないのですが、
しかし、
あからさまな攻撃的態度は、いかがなものでしょう。
ここまで言われては、むしろ、おかしくなってしまいます。
顔を見合わせて、笑いながら出てきました。

「『そうでしょう、じゃなくて…』なんて、言葉尻を捉えて」と、
笑顔のT先生。
本当に辛抱強く、頭が下がります。

そして、そのまま蓮如さんが歩いた道へと向ったのでした。

浮御堂で、若いお坊さんに叱られたT先生。
蓮如道を行く先生の本心は、誰にも分かりません…