呼吸のように・・・

俳句のエッセー

蟇蛙(ヒキガエル)

小学校のプールの掃除は、六年生の役目だった。
プール開きが近くなり、六年生が掃除に出て行くと、そわそわした。
またプール掃除には、毎回、面白い話がつきもので、
六年生になるのを、皆、楽しみにしていた。

一同が揃えられて、割り当て場所が発表されると、モップだとか、各々に手渡される。
こういう機会でもないと、水のないプールを見ることなどないので、
見るものすべてが珍しく、落ち着かない。
そんな中でのお掃除だから、
掃除しているのか、遊んでいるのか、すぐに分からなくなった。

初めに割り当てられた場所も、やがて崩れて、
面白いこと探しに奔走し始めたころ、蟇蛙が発見された。
待ってましたとばかりに走り寄り、遠巻きに見ていると、
ワッと飛びあがり、ボテッと落ちた。
驚いて、一瞬、取り巻きの輪が広がるが、蟇蛙はそれきりじっとして、動かなくなってしまった。
モップをちらつかせて脅しても、びくともしない。
しょうがないから、いよいよモップの先でちょっと突くものの、
ぺたぺたと方向転換する程度で、知らん顔をしていた。

初めは面白く眺めていたが、動かないので面白くない。
どうしたら動いてくれるのか。
触るのも嫌だし、モップのイガイガを刺したらどうか、
それより枝でつついた方がいいんじゃないか、
誰がやるんだ、お前やれ、えー!と野次馬の騒ぎの中、
蟇蛙は、悠々としていた。
そうやって騒いで喜んでいると、やがて先生が登場し、
真面目な生徒が言われるまま蟇蛙を追いたてて、野次馬群はお開きとなった。

そして、プール掃除を終えて校舎に帰り、蟇蛙の報告やら感想やらを話していると、
後輩たちが、羨ましそうにこちらを見ていた。

先日通ると、私の通った小学校の校舎は、いつの間にか新しくなっていた。
校舎の思い出は失われたが、プールは変わらずにあって、
すべてが小さく感じられ、また、古ぼけて見えた。

プールのシャワーに虹がかかったことも、
泳いだ後で、上向きの蛇口から出る水で目を洗わされたことも、
一度に思い出されて、懐かしかった。