呼吸のように・・・

俳句のエッセー

虫鳴く

  虫鳴くや独り暮らしの姉と臥し   和生
姉と弟。
長い年月を経て、また、幼き日のように
二人並んで寝床に臥しているというのでしょう。
違和感は全くなく、子供の時のままのようです。
独り暮らしと書かれていることを思うと、ここはお姉さまの家ではないでしょうか。
おそらく畳の部屋で、眠りにつくまでの時間を、ゆったりとお話しなさったのかもしれません。
幼い頃と変わらないようでいて、
彼女は、もう幼い頃のお姉さんではありません。
頼りになる姉ではなく、一人の弱い存在になりました。
姉の今の暮らしや、日常や、将来を思いやる気持ちがありながら、
口にはしないでいる弟、自分。
お姉さまとの会話は、やがて途切れ、
虫の鳴き声にとって代わりました。
慣れない部屋での就寝に、しばらく休めないでいて、
作者は、一人、闇の中に虫の声を聴きながら、
色々なことを考えたのではなかったでしょうか。
「独り暮らしの姉」この言葉に、
弟である作者の万感の思いが込められています。