子どものころ、「チーター」と呼ばれていた。
これは、本人も認めたニックネームだ。
体育の時間に必ず行われたマラソンで、
常に一位を保っていた実績から付けられたのである。
小学校3、4年くらいだったろうか。
新年度にも慣れてきた若葉のころ、
授業で、動物について調べてくるように、という宿題が出た。
その時間、次々、発表したが、その内容は多彩だったように思う。
中には、「犬は財布を拾います」というのもあった。
そんな発表を聞いていて、大事なことを忘れていたことに気付いた。
チーターは100メートルを3秒で走る。
自らのニックネームでもあり、記憶にとどめていたのだ。
そうだ!これを言わないでどうする。
私は、自分の調べた内容に、これを加えて発表した。
クラスはどよめいた。
先生は、私のノートを取り上げて、
「書いてないじゃないの」とか何とか言い、
ノートに書いてないという理由で、この発言を無効とし、板書を消してしまった。
私はすっかり悲しくなってしまった。
それからしばらくして、図書室に動物の本を見つけた。
なんと、そこには、
「チーターは、最高速度に達すると、1秒間で30メートルを走る」
ということが書いてあった。
1秒で30メートルなら、100メートル3秒台である。
私は間違っていなかった。
これほど立派な発表は、他になかった。
「犬は財布を拾います」と、比較にならないほどの発表だったのではないか?
湧きあがってくる喜びに胸を熱くしながら、
改めて、その時の悔しさをかみしめた。
淡い緑色の美しい若葉は、生命力に溢れながらも、
一方で傷つきやすい存在であることを思うのである。