呼吸のように・・・

俳句のエッセー

有頭海老事件

年用意を終えて、お蕎麦をいただき、

みかんを食べながらテレビを見る、

晦日の過ごし方です。

私の母は、もう20年近く前に亡くなりましたが、

おせち料理を一緒に作っていたことを思い出します。

買い出しリストを作り、丁寧に吟味して

一つ一つ買い足していきます。

欠かせないのは「海老」です。

魚屋さんの店頭には、今日の日のために仕入れられた海老が並びます。

もちろん頭がないといけません。

「有頭海老」と書かれ、5尾、それ以上がひとまとめにされて、

値段が付けられていました。

母と私は、選ぶのが楽しくて、あれこれ話し合い、

ようやくお気に入りの海老を購入しました。

帰ってからは大忙しです。

野菜の下ごしらえは私が、母は煮物に専念します。

やがていい匂いがしてきたので、私はちょっと鍋の蓋を取ってみました。

平鍋に丁寧に並べられ、海老がくつくつと煮詰まっています。

海老は煮詰めると色が鮮やかになり、実に美味しそうです。

が、何か変です。

「お母さん!」

叫んでいました。

「頭は?」

どの海老の頭も、きれいに取られていたのでした。

「あら!」

母も驚いています。

我が家では、あまり海老の頭を好まなかったので、

いつも海老は、大きな海老は、頭を取って煮ていたので、

どうも、いつもの癖で、頭を捨ててしまったようでした。

「何のために有頭海老を買ってきたか、わかってる?」

「あら」

母は、「あら」と繰り返すばかりで、ついに笑い出しました。

結局、おせちの主人公の海老は、頭なしで

お重に納められたのでした。

我が家で起こった「有頭海老事件」でした。

おしまい。