呼吸のように・・・

俳句のエッセー

石棺

石棺の蓋の外るる初音かな   和生

 

一瞬、「え!」と思う一句です。

石棺の蓋が外れて、中から鶯が飛び出したのでしょうか。

あるいは、中からあらぬ何かが起き出して、

その時に鶯が鳴いた、というのでしょうか。

いえ、そうではありません。

これは、おそらく古墳時代のお墓の跡でしょう。

盗掘にあったのか、発掘によるものか、

風化したのかは分かりませんが、

蓋もなくなり、露わになったくり貫き石のそれは、

ぽっかりと口を開けて、空っぽの空間だけが

そこにあったということだと想像します。

空っぽの石棺に、春を告げる鶯の声が響きました。

初音です。

見事な石棺は、かつての貴人が眠っていたに違いありません。

が、今はこの通り、鶯の声に満ちる空間になってしまいました。

過去と現在が石棺において交差する、感慨を詠った一句です。

石棺の中にいつまでも谺する鶯の声のように、

その感動を譬えているのでしょう。