呼吸のように・・・

俳句のエッセー

桜の木

倶利伽羅の谷へ出掛けると、たくさんの桜に出会います。

桜は日を受けて立っていましたが、

風が強く、しきりに枝を揺らしていました。

五感を使うことは、この身に何かを受けることなので、

風に体温を奪われつつも、桜の幹に触れてみました。

冷たいかな、と思いつつ。

しかし、意外にも温かでした。

春ですね。

桜の芽はうっすらとふくらんで、霞のようです。

風の音がして、そのあと、めまいがしました。

いえ、そうではなく、

桜の幹が風に揺すられ、私の身体に揺れが伝わったのです。

桜が揺れている。

枝ではなく、幹が揺れている。

驚きつつ、また、ずっと桜に触れていました。

しかし、もう幹は揺らぎませんでした。

風が来て、強い風が来て、

枝が空を揺するように揺れても、幹は揺らぎませんでした。

木は強いものです。

枝は風を受け流して、大きく揺らぎ続けても、

幹はしっかりとそれを支え、微動だにしません。

木々の知恵を思いました。

いえ、木々に知恵があるのではなく、このように造られているのでしょう。

人知を超えた何かを感じませんか。

私たちは、桜より優れたものだと思いませんか。

桜より美しいものだと思いませんか。

たとえ、この木々より長く生きられない存在であっても、

私たちはもっと素晴らしい何かをたくさん持っています。

人も、そのように美しく、素晴らしいものとして

造られているのでしょう。