呼吸のように・・・

俳句のエッセー

立金花

春の日は湖より昇り立金花   田島 和生

 

風の会」第10回は、大津で開催されました。

沢木欣一先生が2001年にお亡くなりになり、

以来、続けられていた「風の会」でしたが、

第10回をもって最後となりました。

その日、琵琶湖近くのホテルに宿泊した私は、

湖から昇ってくる朝日を見て絶句しました。

日本海側に住んでいると、太陽は山から昇ってきます。

空がじわっと白んできて、光の世界を追うように

最後に太陽が顔を出すというもの。

しかし、琵琶湖ではそうではありませんでした。

湖面に太陽が顔を出したか否か、その瞬間に、

差すような日差しが目に飛び込んできたのです。

世界は、この日の出によって、光の中に入れられました。

よく俳句で「朝日が飛びつく」という表現がありますが、

「朝日が飛びつく」という言葉の意味を、初めて知った思いでした。

朝日は、スポットライトのように、辺りの物すべて、一つ一つを輝かせました。

そして、湖面は、きらきらと朝日を返し、黄金を敷き詰めたように輝き、

太陽への道をわたしに示してくれたのでした。

恐らく、全てが光に照らし出されたのでしょうが、

その中でひときわ輝いて見えたのが、湖辺にはびこっていた

立金花(リュウキンカ)だったのでしょう。

それほど目立った花ではありません。

名前も知らないような、春の野花です。

似たような花なら、どこにでもありそうです。

が、花が動きません。

これは、立金花でなければならないでしょう。

この野辺の黄色い花に、朝日が飛びついたに違いありません。

なんでもないわき役に光を当てて、主役にした作者は、

優しく、細やかで、広い心の目を持っていると感じます。

人は、誰も、この立金花のように、

太陽を浴びて、星の如くに煌めくのでしょう。

季節は、冬から春へ、命を漲らせます。

人もまた、命の輝く季節です。