呼吸のように・・・

俳句のエッセー

鳥帰る

鳥帰る水と空とのけじめ失せ   沢木欣一

(とりかえる みずとそらとの けじめうせ)

 

鳥の帰るころとなりました。

田舎の広い空に、小鳥たちが群れて、

水田の上を巡り、飛んでいました。

渡りの準備でしょう。

冬鳥たちは、春を迎えて、活発になっています。

 

掲句は、鳥が空へ見えなくなる、渡りの時に、

水と空とが同じ色になり、境が判らなくなっていた

という景色を詠んでいます。

海でも、湖でも、川でもなく、「水」という表現に

読み手の想像力が働きます。

その水がどこであっても、

水は空を映しているものではありますが、

この春の空と水とが一体となっている、

無限のかなたへ、鳥は吸い込まれて行ったということでしょう。

「水と空とのけじめ失せ」

この見事に表現された風景に、

季語が動きません。

そのままのようでいて、

奥深い心情、春の喜びと愁いが表れているようです。