呼吸のように・・・

俳句のエッセー

ひややか

  ひややかに月下美人の一夜花   田島 和生

「ひややか」は、秋の季語です。
うっかりして、間違えそうになる季語かもしれません。
秋の気配が感じられるようになるころでしょう。
初秋の暑さも去り、すっかり秋らしくなる少し前、
真夜中には、ひやひやとした空気が感じられます。
その気配に花開いた月下美人は、一夜きりの儚さでした。
月下美人」は夏の季語ですが、このような場合は問題ありません。
むしろ、月下美人でなくては、この句は生きませんから、
積極的に用いられたのでしょう。
事実、月下美人でなければ、この句は面白くありません。
一夜花と、あえて詠まれていますが、
月下美人は、もともと一晩きりの花。
その妖艶さ、儚さから、その名がありますが、ひやひやと秋の気配が
漂う頃になっても、未だ衰えることなき花の美しさに心惹かれての一句でしょう。
そして、夏には思わなかった「一夜花」であるという事実も、
改めて胸に迫ってきたに違いありません。
花の特徴を上手くとらえた秀句です。