呼吸のように・・・

俳句のエッセー

大蛾舞ふ

  大蛾舞ふ月下美人に触れもせず   田島 和生

子どもが青虫を拾ってきて、嬉しそうに母親に見せます。
見ると、お尻の方に角がありました。
母親は、図鑑を取り出し、
この青虫は、蝶ではなく、蛾になるのだと説明しますが、
子どもは納得しません。
写真を見せ、目の前の青虫を見せ、比べて、
ようやく、捨てることを納得させました。
寒くなり始めのころ、校舎に大きな蛾が並んではりついているのを覚えています。
地味な色のリボンのような蛾。
それほどではなくとも、大蛾が、月下美人に吸い寄せられるように
辺りに現れたのでしょう。
魅惑の花を巡り、寄っては離れ、しかし、止まりはしません。
「触れもせず」と詠みます。
月下美人を擬人化してとらえているようで、しかし、
そのようには具体的に言い表さずにいます。
月下美人の特性を見事に活かした一句です。