呼吸のように・・・

俳句のエッセー

河鹿笛

  白山の瀬音に混ざり河鹿笛   田島 和生

春の白山より流れ来る川。手取川
碧く澄んだ渓谷は、雨の後は白濁した流れとなります。
手取川の濁り、と言えば、土色の濁流ではなく、
白く濁った、美しいとさえ思う流れのことを言います。
その流れは、途切れることなく続きます。
瀬音も絶えず、高く響いて来ます。
その中に、細々とした音色、河鹿の鳴き声はわかるものなのでしょうか。
不思議なことですが、音があまりに違うせいか、
音の大小にかかわらず、それは聞き取ることができます。
瀬音の高鳴りは、また、一様ではなく、
その抑揚の狭間に、河鹿の澄んだ鳴き声は、確かに聞きとれるのです。
河鹿笛とは、見事な日本語ではないでしょうか。
その笛の音は、大音の瀬音に対し、主旋律の様に響くのでしょう。
雪解けの水の嵩は、まだ衰えない春先、
河鹿笛の音に立ち止まり、耳を澄ます作者の姿が目に浮かびます。
作者の見た風景は、私の記憶の手取川と重なり、
河鹿笛の余韻を長く胸に留めたのです。