呼吸のように・・・

俳句のエッセー

啓蟄の海

  啓蟄の海落日の大きかり   松村 節子

『かんさいの風』より。
啓蟄に海を取り合わせた俳句は、珍しいのではないでしょうか。
啓蟄とは、虫出し、つまり、冬の間活動を休止していた虫たちが、
暖かくなったので土から出て来る、という季語です。
3月5日ごろになります。
ですから、土と結び付けて詠まれることが多いのですが、
掲句は、海。
しかも、大きな夕日だと詠っています。
啓蟄になると、虫だけではなく、様々なものが動き出します。
人もその一つです。
自註によると、和歌山加太の雛流しと併せているようです。
「三月三日になると、静かな浜は活気づき、磯の香りが漂う。
 加太の浦は、潮が引くと干潟一面に礒岩が現われ、磯菜を採ったり、
 蟹を捕まえたりして愉しむ家族づれで賑わっている。」
活気を取り戻した磯の人々に、見事な夕日が落ちていくのが見える。
そこには、土地に住む者しかわからない、
啓蟄を思う夕日があったのでしょう。