呼吸のように・・・

俳句のエッセー

月悲し

  返り見て落葉激しき芭蕉みち   田島 和生

倶利伽羅峠にて、芭蕉は有名な俳句を遺しました。
  義仲の寝覚めの山か月悲し
この辺りでは、句碑も建てられて、この句を知らない人はありません。
倶利伽羅峠のこの道で、落葉が激しく風に舞う景色。
冷たい風が吹くたびに、木々がたくさんの葉を散らします。
風が鳴り、今来た峠道を振り返ると、
思わず声を上げるほど、激しく木の葉が舞い落ちてゆくのです。
芭蕉が通ったこの道を、今は、冬の風が通り過ぎて行きます。
松尾芭蕉は、この峠を越えて、金沢へ入りました。
そこで再会を楽しみにしていた小杉一笑。しかし、
一笑は亡くなったと知らされます。
彼を偲んで、一笑塚の前で開かれた句会で、芭蕉が詠んだ句。
  塚も動けわが泣く声は秋の風
この身を引き裂かんばかりの慟哭の思いを、秋風に写しています。
倶利伽羅の激しく木の葉を散らす風も、
芭蕉の受けた風に似ていると、作者は感じたのかもしれません。