呼吸のように・・・

俳句のエッセー

懸大根

 立山へ日は傾きぬ懸大根   田島 和生

秋風が吹くころ、収穫されたものが、
軒下に吊られているのは、珍しいことではありません。
柿、玉ねぎ、そして大根。
大根は大きいので、目を引きます。
懸け方も色々で、何段にも稲架のように懸けられていたり、
物干しざおに、葉の部分を結ばれて、二本ずつ懸られていたり、
一本ずつ丁寧に懸けられていたり、
面白く拝見させていただいています。
夏までは、洗濯ものが干されていた場所に、
一気に大根が干されていたときは、季節を思いました。
掲句は、倶利伽羅の山の家に干されている大根でしょう。
倶利伽羅山は、峠のあった砺波山ですが、
それほど高い山ではなくとも、気温は、やはり下界よりは低く思います。
いち早く、凛とした風にさらされた大根は、さぞ美味しくなることでしょう。
そして、倶利伽羅からも、立山は望めます。
倶利伽羅は白竜、立山黒龍と、二つの御山は信仰に結びついています。
立山へ日が落ちてゆく頃、風は一層冷たくなります。
真冬になる前に取り込まれてしまう大根。
初冬のひと時だけに見られる風物詩を見事にとらえてあります。