呼吸のように・・・

俳句のエッセー

犀川

 犀川のすみずみ照りて鴨来る  田島 和生

犀川に鴨が渡ってきました。
鴨の数は、日毎に増えてゆき、日毎に冬らしくなってゆきます。
一番のりの鴨を見たのは、まだ冬らしくない頃、
鴨だ、鴨だと欄干にかぶさるように、犀川を覗いていました。
悠々と、太った鴨が流れを横切って渡っていく姿を、
俳句の仲間と、黙って見つめていました。
もちろん、目を輝かせて、俳句を考えていたのですが、
その句は、どこへ行ったでしょうか…
掲句は、その犀川の鴨を詠んでいます。
犀川は、朝に夕に、日の光を散らして、いつも輝いています。
「すみずみ照りて」という景色は、
誰でも思い浮かべることができるでしょう。
いつもの美しい犀川へ、しかし、今日は鴨が渡ってきました。
鴨が渡って来たので、犀川の様子も、一段と美しく
新鮮に感じられたことでしょう。
光り輝く犀川を写生するのは、簡単ではありません。
どれも言い尽くされた言葉のようだからです。
しかし、その犀川を、「すみずみ照り」と表現されたところは、
さすがと言わざるを得ません。
しかも、初鴨の感動を伝えています。
是非、金沢へいらした折は、犀川で、
この感動を味わっていただきたいと思います。