呼吸のように・・・

俳句のエッセー

栃の実

 橡の木や暗む空より堅き実を   田島 和生

いつだったか、金沢の広坂通りを歩いていて、
ふと後方から、大きな音がしたので、驚いて振り返りました。
それは、栃の実が、固い歩道を打ち付けた音でした。
何が起こったのかと思いました。
それほど、大きな音だったことも驚きましたが、
当の橡の実は、潰れもせず平然と転がっていたのにも驚きました。
本当に堅い実です。
掲句は、暗む空とありますから、秋山の変わりやすいお天気を思いました。
その暗い空の深くから、つぶてが落ちてきました。
それは、堅い堅い、栃の実だったのです。
私の驚きと似た思いを、作者は抱いたことでしょう。
空から堅い橡の実が落ちて来た…
当たらなくて良かった…と思ったかもしれません。
一瞬の驚きと安堵感を漂わせる、
ちょっと緊張感のある景色を見事にとらえた作品でしょう。