呼吸のように・・・

俳句のエッセー

大境洞窟遺跡

  祖(おや)たちの暗き岩室滴れり   田島 和生

大境洞窟遺跡。
富山県氷見市にある複合遺跡です。
縄文時代から弥生時代古墳時代、歴史時代と
地層が重なっている遺跡です。
この大境遺跡によって、縄文時代弥生時代の新旧が明らかとなりました。
現在、海を背にした形で、洞窟はあります。
なぜか、日本人の心なのでしょう、
洞窟の真ん中には、祠が建てられています。
歴史を、自然を、堪能する意味で訪れている私にとって、
祠はいつも「ちょっと、邪魔…」と思うのですが、いたし方ありません。
時を重ねて、土地の条件は変わっているとは思いますが、
今も大きな洞穴の入り口は滴り、奥は涼しくて、
洞窟の上の木々には鳶の巣があるらしく、鳶がしきりに鳴き、
遠くで海猫の声がします。
考古学を勉強していたころから、よく訪れています。
海も美しいですし、漁師らが定置網の手入れをするのも
私にとっては珍しい景色です。
掲句は、縄文時代からの先祖を、「祖(おや)」と表現されたのでしょう。
当時は、これ以上ない、自然の邸宅だったに違いありません。
今は、滴りの続く、岩の穴に過ぎない洞窟。
訪れる人、それぞれが、それぞれに思いを抱く、遺跡です。