呼吸のように・・・

俳句のエッセー

孕み猫

  孕み猫からだをすぼめ垣くぐる   泊 康夫

句集『麦星』より。
泊先生は、細やかな心の持ち主でいらして、
気づかいを忘れられませんでした。
また、威厳のある方で、やすやすと近づけない雰囲気を、
同時に持っていらっしゃいました。
その先生の句集をお読みすると、
また、新たな一面が見えてきます。
ユーモアあふれる方だったのだと知りました。
掲句は、お腹の大きい猫が、からだをすぼめて、
ようやく垣をくぐっていった、という場面をとらえています。
いかにも重そうに歩いていく孕み猫は、
猫らしい俊敏さや躍動感は、ありません。
普通なら、難なく駆け抜けていく垣を、
身体をすぼめて、ようやく潜り抜けていったというのです。
その猫の行動の変化を、敏感につかんだ観察眼が素晴らしい。
そして、その動作を、重そうに歩いたとか、お腹がどうこう言わず、
淡々と詠みあげることで、むしろ母猫の愛情を感じさせます。
からだをすぼめて垣をくぐった、お腹の子供をいたわるかのような姿に、
誰もが人の母を重ねて見るのではないでしょうか。
ユーモアによって痛みを和らげるような、
真面目さをゴマ化してしまうような、
そのような人柄をにじませる一句だと思います。