呼吸のように・・・

俳句のエッセー

雉ネット俳句(10月)

大好評、「雉」ネット俳句。
10月の応募作品から、3句の特選が選ばれました。

大前 貴之 選

〈特選〉
小鳥来る母の三十三回忌    藤井 薫 鳥が渡るのは毎年の事だが、同じ鳥が毎年やって来るわけではない。それと同じように、毎年の周忌にも同じ顔ぶれが揃うわけではない。それでも小鳥の歌声の変わる頃、母を懐かしむ多くの方々が集まってくれた。
 朝の小鳥の声の変化と、忌日に集まる顔ぶれの変化に思いを込めた秀作。

明日の朝寒いと妻の言いに来る   秋山 隆一
 「そんな薄着で寝ては風邪をひくわよ!」子供を叱るような、優しい妻の声が聞こえる。日常の会話が自ずと句になることは良くあることだが、言葉を受け取る側の心が研ぎ澄まされていなければ、特に結晶しない。この句、「飛花落花」の実践句であり、作者の感受性の鋭さを示している。

吾亦紅やさしく風の吹く日かな   永野 昌人
 やや言い過ぎの作品が今月は多かったように思うが、その中で、この作品は適度な寡黙と切れによって余情を醸し出していた。これで読者に何が伝わるのか思う方は、この作品を百回ばかり書き写して欲しい。入門書を読み返しても無駄なこと。作品を味読すること、落選に打ちひしがれること、その二つを諦めずに続けることでしか、俳句の女神を微笑ませることはできない。

以上、大前 貴之 先生の特選句でした。
おめでとうございます。

明日は、佐保光俊先生選です。
お楽しみに。