呼吸のように・・・

俳句のエッセー

燈火親しむ

  燈火親しインク飛び散る古襖   田島 和生
「燈火親しむ」秋の季語です。
夜の長い秋は、灯りの下で過ごす時間が長くなります。
燈火に親しむ、そのような意味です。
今でこそ、夜も明るく過ごせますが、
かつては蝋燭や油の灯、そしてランプ程度でした。
薄明かりの夜は心細かったかもしれません。
その分、燈火に親しむのでしょう。
掲句は、その燈火の下で、書き物をしていたようです。
書いているうち、万年筆のインクが飛び、古い襖に飛びました。
古襖と言うのは、慣れ親しんだ我が家の襖という意味でしょう。
青か黒か、いずれも、白っぽい襖にインクの染みがついてしまいました。
夢中で書いていた手を止め、しまったという思いの作者は、
一方で、この出来事を楽しく受け止めているようです。
新聞記者として、俳人として、ペンを持つ仕事の作者は、
幾度かインクを散らす経験をなさっていることでしょう。
そして、これからもペンとの付き合いは続きます。
これからも、生きのいい俳句をお見せくださいませ。