呼吸のように・・・

俳句のエッセー

袋角

  雄心の見えて膨るる袋角   田島 和生

袋角を意識して観察したのは、先日の同人会吟行会が初めてでした。
奈良にはたくさんの鹿がいて、人と共に棲んでいるので、
ゆっくりと眺め、また、触れさせてもくれました。
手に触れて、驚きました。
熱い……。
明らかに熱を持っているではありませんか。
雄鹿が角に血潮をみなぎらせているのです。
角を伸ばすのには、どれほどの代謝があるのかとの思いがよぎりました。
熱く、血潮の色をにじませている袋角は、雄鹿の雄心。
そう詠み上げます。
鹿は、角が生え変わるたびに、その枝を増やしていくのだそうです。
年を重ねるごとに、立派になっていく角。
作者は、誇らしげに伸びてゆく袋角に思いを重ねたのでしょう。
袋角を「雄心」という控えめな言葉を使い、「膨るる」と表現したところが、
この句の魅力だと言えるでしょう。