呼吸のように・・・

俳句のエッセー

黄落

  黄落のただなか乳を吸うてをる   林 徹

季語「黄落」、秋。
木の葉が黄色くなって散っている様子を言います。

ただ、「紅葉散る」「散紅葉」や「落葉」は、冬の季語になりますので、注意しましょう。

黄落と言えば、真っ先に公孫樹を思いますが、わかりません。
桂も早々と黄色になっていたようですし、
柿のように、様々な色を見せてくれる樹もあります。
赤ん坊が乳を吸っているのですから、公孫樹ではないようにも思います。
大きな乳房に顔を寄せて、一心不乱に乳を吸っている赤ん坊は、幸せの象徴のようです。
事実、母親にすべて包まれて、愛情をいっぱいにもらって育っているのでしょう。
夢中になって乳を吸う姿は、どれほど続いたのでしょうか。
その間も、しきりに黄色く美しい葉は、流れるように散っていました。
まだ、紅葉の美しさもわからない赤ん坊は、
美しい景色の一つとなって、母に抱かれ、紅葉の中にいます。
赤ん坊の姿に命の力強さを感じ、改めて驚いている作者。
感動がそのまま言葉になったようです。
「吸うてをる」で終わっているこの句に、
読む者は、「おや」といった驚きに、思わず微笑んでしまいます。
幸せを運んでくる俳句です。