呼吸のように・・・

俳句のエッセー

菊刈りて胸にしばらく香の残る .... 太平 栄子

刈り取った菊の香りが胸に残ったというのです。
「胸に残る」とは、なんて女性らしい感性でしょうか。
しばらく、菊の残り香にひたっているというのでしょう。
それを、香が胸に残っていると言い表して、
菊の香りの写生と仕立てているのです。

香りの記憶は、いつまでも残るのだと聞いたことがあります。
ふだんは忘れていても、香りによって、かつての記憶が鮮やかによみがえる、
そのような経験は、誰にでもあることでしょう。
作者もまた、菊の香りによって、思い出されることがあったのかもしれません。
胸によみがえった記憶は、今しばらく作者の心に、
熱く、切なく、締め付けるような微かな痛みを与えていたのかもしれません。