呼吸のように・・・

俳句のエッセー

花野

「花野」は、秋の草花が咲き乱れる様を言う、秋の季語である。
青々とした草は、やがて花を咲かせ、
色づいて「草紅葉」となり、
枯れて冬の様となる。

   塩田をかこめる花野ありにけり   沢木 欣一
能登塩田。珠洲の角花家の塩田であろう。
今では、塩田の脇を立派な道路が走り、車の便も良くなった。
伝統的な揚げ浜塩田が見直され、近頃は塩田の数も増えている。
しかし、汐を桶で撒くことから始まる伝統技法を現在も継承して塩を作っているのは、
ただ一つ、角花家の塩田だけである。

かつて、現在の道路がなかった時代、奥能登は孤島のようであり、
花野に囲まれた塩田は、現存する唯一の塩田だった。
一見、美しい景色を思わせる写生に、孤独な雰囲気が漂う。
周りは自然の花野、一方は、はるかな海である。
塩田が閉じられていく中、一家族だけで営んでいる塩田作業。
日没まで日陰のない珠洲の浜に秋が来て、塩田作業も終わりに近づいた。
波の花の見られる厳しい冬までの、ひと時の憩いにも似た、花野の中の塩田を写生する。
自然は、美しいだけではなく、恵みを与えてくれるだけではなく、厳しい性格を併せ持つ。
自然との共存は、闘いでもある。

一枚の塩田を守り通した角花家へ、万感の思いを込めた一句であろう。