夏蝶に釉うつくしき瓦かな 林 徹
夏の蝶をすべて「夏蝶」と言いますが、
揚羽蝶を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
ひらひらと羽を羽搏かせて、花から花へ移る揚羽蝶。
一方、黒揚羽は、風に乗って馳せていきます。
飛び来たと思えば、ふっと飛びはねて、青空へ消えていく、
掲句は、そのような黒揚羽を思い浮かべます。
頭上高くに舞い上がっていく蝶を目で追うと、
屋根瓦が、夏の日差しに眩しく、白々と輝き、
一瞬、目がくらんだのでしょう。
見慣れた黒瓦が、こんなにも美しいものだったとは、
なぜ、気づかなかったのだろう…
日本の伝統の瓦屋根は、日本人が練り上げた伝統の美です。
ひらめく夏蝶が瓦に消えて光となった、これは、
寺院の屋根だったかもしれません。
一瞬、暑さも忘れ、蝶を見送ったのでしょう。