空が高く、あまりにいいお天気だったので、
日没前、不覚にも山へ出かけてみようと思い立った。
山頂には牧場があり、牛や山羊や兎がいる。
景色もいいに違いないと思いながら、九十九折りを車で走っていった。
と、不意に崖から茶色のかたまりが飛び出してきて、
ブレーキをかける間もなく、車に体当たりした。
「キャア!」
ドォンと車中に響き、車は停止した。
やった。轢いてしまった。
そう思った時、ドアミラーに
一巡して崖下へ走り去る猪が見えた。
「いのしし!」
初めて見た。
夕方から活動開始するという猪は、
これから民家の畑へでもいくのかも知れない。
死ななくて良かった。
結構、元気そうだったけど、頑丈なものだ…
こう興奮が続くなか、更に九十九折りを走っていくと看板があった。
「クマ出没注意!」
熊も出るらしい。
展望台に着いて、見るとバンパーに3センチほど罅が入っていた。
泥が飛び散って、辺りにこびり付いていたが、
その他に異常はないようだった。
かなりの石頭のようだし、スピードも出ていなかったから大丈夫だろう。
バンパーがちょっと傷んでしまったが、不思議と愉快な気分だった。
山育ちの友人がいつか話していた、
「猪を轢いたら、ラッキー!猪鍋にするんだ!」
ということを思い出した。
さすがにそこまでは考えられないな…
そう思って、また、おかしくなった。
今日一日の出来事が、皆、飛んでしまうほど
衝撃的な、猪の夕べだった。