呼吸のように・・・

俳句のエッセー

寒蝉

杣山に入ると、間伐材がつぎつぎ運び出されていた。
杉を育てている山に囲まれて過ごしているが、
伐採をほとんど目にしない。
というか、見えていないのだろう。
間伐とは、いわゆる間引きだが、それをしないと杉は太くならず、
ひょろひょろと長くなるばかりなのだそうだ。
間伐が済むと、杣山の下草にも朝日が届く。
杉の一本一本が、長い影を下草に伸ばしていた。

そこに法師蝉が鳴き出した。
秋の蝉の声は、細く遠くに聞こえる。
鳴き終えたかと思うと、また別の方角から、
法師蝉の儚げな鳴き声が聞こえてくる。
杣山の寒蝉は、代わる代わる鳴いた。
勢いのない法師蝉の声と、
長い杉の影が映える澄んだ空気とは、
秋を感じさせてくれるのに十分な景色だった。