呼吸のように・・・

俳句のエッセー

稲穂

山道を車で走っていて、不安になることがある。
どこまで続くのだろう。
どこまで行っても、同じ風景で、
人家らしきものが一つもないのだ。

そんな時、車にガソリンがあるかどうか、それが肝心である。
車は根性では走らないので、ガソリンがあるかぎり、
何とか自力下山の可能性がある。
大げさではなくて、そのくらい不安だということなのだ。

その山道で、こんなところに…という猫の額ほどの土地に、
稲が実っていることがある。
隠田である。

隠田は、いわば税金逃れの田圃というので、
お百姓さんの苦労がしのばれる。
今では、自然に返っているものもあるようだが、
ここでは、立派に収穫の時を迎えていた。

元気のいい秋の蝉が、ジジ…と言って、近くの幹にペタっと付いた。
しきりに鳴く秋の蝉は、幹のあちこちに、飛んでは止まりと繰り返していた。
自然に取り囲まれての稲穂は、
わずかだけれども逞しく、粒ぞろいのように見えた。