呼吸のように・・・

俳句のエッセー

虫時雨

漁港に朝日がさして、さざ波が立っていました。
磯の香りがして、心の中まで洗われるようです。

その人は、暗い顔をして海を見ていました。
いえ、つとめて明るく振舞っているようでしたが、
楽しそうには見えませんでした…

蔓延っている葛の葉が、一枚一枚、
ひどく大きく見えていて、言葉が聞こえないくらい
虫が鳴き競っていました。

目を閉じて、大きく息を吸ってから、
太陽に向かって瞳を開くと、
光が、まるで、私に向かって輝いているようでした。

誰にも、太陽は等しく輝いていることを思い出します。
たとえ、これから、霧がかかり、雲がかかり、雨が降ろうとも、
太陽は今日と同じように、輝きながら天空を昇っていくことでしょう。
霧の時も、雲の時も、雨の時も、
太陽には一瞬でしかありません。
そして、私たちの地上の時も、一瞬でしかありません。
この儚く、貴重な一時を、慈しめばいいように思います。

瞬きした次の瞬間、
太陽が笑顔をくれるはずです。必ず…