呼吸のように・・・

俳句のエッセー

干草

近くの牧場まで車を走らせると、そこは夕風が涼しい別空間だった。
つい先頃まで、なだらかな丘は草に覆われていたのに、
全く刈られてしまっていた。
見晴らしが良くなった丘へ足を踏み入れると、
思ったより広々として、驚く。

一足ごとにバッタが飛び、
立ち止まってうっかりすると、足に山蟻が這い上っていたりする。

丘全体が、干草の匂いに満たされている。
夕日がおぼろに見えて、干草に私の影が映る。
干草の私の影は長く、じっとして動かない。
しゃがんだまま、動かない。

私は、動けない。
夕日に捉えられて、動けなくなった。

更に日が陰り、夕風が強くなり、合歓の葉が閉じたので、
ようやく重い体を動かすことができた。
干草の匂いの中を、丘を、歩いて、歩いて…

山羊が鳴いて、牛が匂って、私は帰ってきた。