呼吸のように・・・

俳句のエッセー

風鈴

我が家にある中庭…というか空間は、
濡れ縁から眺めることができる。
しかし、眺めると言っても、そこはただの空間だから、
今では、ホタル族の兄のためのスペースになっている。

濡れ縁に出るガラスの扉に風鈴がかけてあって、
開閉のたびにいい音色が響く。
風鈴なので、よく響く。
年中、響いているわけだけれど、
夏になると、やはり風情があっていいと思う。

何年か前に、初めて山歩きに誘われた。
雪解けの季節で、女性だけでは危ないというので、
結局、登山口辺りをうろついた後、
温泉へ行って帰ってきただけだったが、
その前日の準備に、
「熊対策」をせよ、とのお達しがあった。
よくわからなかったが、
「鈴はないか?」と家の中をひっくり返していたら、
姉が、
「私、持ってる!貸してあげる。」
と部屋へ行ってくれた。

あわてて戻ってきて、「はい」と渡そうとする、
その姉の手にあったものは、
中庭の扉に吊るした風鈴と、まったく同じ風鈴だった。

「これは……」と、言葉を詰まらせた私と姉の間で、
風鈴はチリンといい音をさせた。

さすがに風鈴を持って山へは行かなかったが、
姉は、父譲りの「天然」であることを
改めて知ったのだった。