呼吸のように・・・

俳句のエッセー

大暑

我が家は、三年余り前に新築したばかりだが、
それには特別な理由があった。

道路拡幅に引っかかったのだ。

タダで家が建つのか、おめでとう!…という話ではない。
そんな旨い話ではない。

補償交渉が長引き、我が家はこのブロックの最後に取り残されてしまった。

ちょっと想像してみてほしい。

まだ整備されていないとはいうものの、
我が家は一軒飛び出して、道路の上に建っていたのである。

見晴らしは、確かに良かった。

が、近所からは色々言われた。
とにかく、道路をつけるために、家が邪魔だったのだ。

新築補償と言っても、全額負担してもらえるわけではない。
また悪いことに、父はちょうど入院中だった。

交渉はいつも決裂した…

しかし、ついに新築工事が始まる日が来たのだ。

その直前まで、荷物を運び出していてクタクタの中、
建築会社や解体業の方々が、続々集まってきた。
あっと言う間に、戸や窓が外されて、人の顔が次々現れ、
大声が飛び交った。

   おお、いいか!  いくぞ!

大木槌が振りかざされた。

ズシーンと大音響が木霊する。

前の部屋の柱が木槌を跳ね返した。

   よし!

と、また一打。また、一打。

大暑の朝。
日差しがまぶしい。今日も暑い日になりそうだと思った。

たくさんの思い出が詰まった家。
新しきを得るために、お別れである。

切なくも清々しい響きであった。