呼吸のように・・・

俳句のエッセー

銀龍草

かつて、俱梨伽羅峠の古道を歩いていて、
「砺波山」の道標を見つけた時のこと。

木でできた道しるべは、根元が腐りかけていました。
そこへ、坂道の下の方から、激しく木々が騒ぎ立つ音が聞こえ、
だんだんにこちらへ迫ってきました。

風がひとしきり辺りの木々を揺らし去った後、
足元をみて佇んでいた私の目に、
全身が透明の、小さな百合のような花が映りました。

初めて目にします。
全身に色がないのです。ほんの10センチ足らずの丈で、
苔のようなイメージで、白く透き通り、小さな花がうつむいています。

先程の青嵐のいたずらでしょうか?
風の落し物かと思うほど、現実離れした植物に感じられました。

それは、「銀龍草」というのだそうです。

倶利伽羅古道で出会った、不思議な花は、
時の流れに洗われれ、澄みきった魂のように感じられました。