呼吸のように・・・

俳句のエッセー

雉の声

砺波山には、古墳群と呼ばれるところがある。

かつて、近畿につながる有力豪族がいたであろうことは、
前方後円墳の存在や副葬品からうかがえるが、
だからといって、古墳時代だけが特段に栄えた地域だとはいえない。
というのは、平地にある川が問題だからである。

川は、現在では堤防に守られているが、
長い歴史の中で、その流れを変えているのは必定であろう。
つまり、川によって人間活動の痕跡が失われていると考えていい。

考古学において、現在ないものを、かつては存在した、
と証明するのは至難の業であるが、
現在ないものは最初からなかったと証明するのは、更に困難である。

最初からなかったのか、あったのか。
このことは、大変重要な論点なのだ。

古墳の頂きに立ち、村落を見渡すと、
心地よい風が吹きぬけて行った。
ふと、雉の声がした。
声の方を振り向くと、竹藪があった。

以前、私が発掘にかかわった遺跡でも、
よく雉の鳴き声がした。
先日、当時の調査員の講演を聞きに行ったら、その遺跡を取り上げ、

「私が若かりしころ関わった、大変印象的な遺跡」

と説明されていた。
「若かりしころ」か…時間の経過を思った。
講演のあと、講壇へ挨拶をしに行ったが、
話し始めると、以前とまるで変わらない話しぶりが、懐かしかった。

遺跡には、雉の声がよく似あう。
遺跡の記憶を貫く、雉の声である。