呼吸のように・・・

俳句のエッセー

梅林

兼六園の梅林は、いつのころからか無料解放されている。

桜が見ごろを迎える季節など、
年に何度かは入場が無料となる兼六園ではあるが、
梅林は関係なく、いつでも解放されている。

梅の花が咲きそろう季節は、日が傾いてきても、
たくさんの人でにぎわっている。

休日は親子連れが多く、子どもの甲高い声が、梅林の中を貫いていく。

赤ん坊のはしゃぎ声が向こうから近づいてきて、
のんびり歩いている私を追い越していった。

すれ違いざまに見えた、乳母車の赤ん坊の小さな顔は、
歯の生えていない口を、大きく開いて、笑っているようだった。

すると、そのあとから車いすが続いた。
赤ん坊のお父さんで、その老人の息子さんであるらしい男性が、
力強く車いすを押していった。

梅林は曲水があり、飛石があり、趣はあるが車いすには優しくない。
それでも平坦な道を選んで、上手に人の間を抜けて行く姿には、
普段の生活そのままで、今日が特別ではないように思えた。

梅林は、更に、夕日の淡い朱色に染まってきたが、
しかし、人のにぎわいが途切れる気配はなかった。

乳母車と車いすは、人ごみの中をずっと進んで、
その先に見えなくなった。