呼吸のように・・・

俳句のエッセー

さくらんぼ

さくらんぼ。

英語で、Cherry (チェリー)といいます。

このカタカナも日本語として通用するので、
特に困らない単語の一つです。

日本人が、言葉のうえでなんでも輸入してしまうのは歴史的な事実で、
日本で同じ漢字にたくさんの読みが存在しているのは、
中国の統一王朝ごとに「音」を輸入したからのようです。

今でも同じようなことを日本人はしていて、
講演会の要約を、レジュメと言ったり、サマリーと言ったりするのでしょう。

さて、
かつて、欧州へ旅行した時のこと。
イタリアは、申し訳程度の2泊3日の滞在でしたが、
ナポリを見てから死ね」というので、
オプションでナポリまで足をのばしました。

ナポリの海岸近くの路上で、おじいさんが荷台に果物を売っていました。
その中に、大粒で真っ赤なさくらんぼが山盛りに売られていて、
日本ではあまり目にしない光景に、思わず食指が動いてしまいました。

そのおじいさんが、私がさくらんぼをじっと見つめている、
その目を見ながら、

「サクランボウ」と、つぶやきました。

聞き覚えのある言葉に、思わず口にしてしまいました。
さくらんぼ!」
おじいさんは、にっこりほほ笑んで、それで商談は成立。
紙袋いっぱいに、さくらんぼを詰めてもらいました。

そのおじいさんは、商魂たくましく片言の日本語をマスターしていたのです。

ナポリの海岸では、ちょうど結婚式を終えたカップルが、
ウエディングの衣装そのままに、風に吹かれていました。
彼らを祝福して、通りすがりの人たちも、
とても幸せそうに笑みを浮かべていました。

カップルにとっても特別な日に、私は特別な景色を
さくらんぼを手にして見つめ、満喫したのでした。

私が、山盛りのレッドチェリーに見とれたのも、
おじいさんの「サクランボウ」の一言に魅かれたのも、
私の名が、Cherryからとっていることと深い関係があるとは、
最後に申し述べておきましょう。