呼吸のように・・・

俳句のエッセー

日永 (殉教の碑)

金沢にある卯辰山の一角に、耶蘇の谷と呼ばれるところがある。

それは、この金沢に殉教した切支丹信徒を悼み、
殉教の碑が建てられたことから、そう呼ばれている。

驚いたことに、それほど古い話ではない。

日本が鎖国を解いて後、
神父のもとを訪ね、先祖からのキリスト教信仰を告白した信徒があった。

このキリシタンの発見より、多くの信者が現れたが、
キリスト教は未だ禁制であったため、彼らは棄教を迫られる。
拷問にかけられ、配流された。

長崎県浦上村から550名の信徒が、この金沢に送られたのは明治2年
明治6年に送還されるまで、百名余りが命を落とした。
彼らの死を悼み、昭和43年、カトリック金沢教会がこの谷に建立した。
それが、この「長崎切支丹殉教の碑」である。

谷底へ降るかのように、土止めで造られた階段が続く。
途中、道が交差するが、それを通り過ぎて、道なりに右に折れ曲がると、
正面に殉教の碑が見えてくる。

日が傾いて来たが、影にもならず、
十字架が嵌め込んである石碑は、正面から日差しを受け、
その影を谷へと落としていた。

悲壮な彼らの運命とは裏腹に、
この一角は広々と、暖かく感じられる。
木々も芽生えている。
鳥の声も聞こえる。

小さな存在である彼らの、
大きく静かな力を感じずにはいられない。

殉教者たちは、今、穏やかな陽光に包まれ、
安んじているのだろうと思った。