立山連邦を見て育った私は、
海というと、少し憧れに近い感覚がある。
とにかく、目の前をさえぎる山がない。
そこからどこかへ広がっていくような、そんな期待感が沸き起こってくるのだ。
潮風も波の音も、それらを象徴しているもので、
「山の彼方」ではなく、「海の彼方」といった感覚だろうか。
私の知らない海沿いの町に育った、ある女性のお話。
よく海で若布を採った。
美味しいのは、通常、出回っている部分ではなく、
若布の根の部分で、たしか「めかぶ」と言ったと思う。
一般的ではないかもしれないけれど、
その辺りに住む人たちには、珍しくない食材らしい。
調理は至極、簡単。
その根の部分を適当に細かく切って、
フライパンにごま油をひいて、炒めて、
醤油をひとたらし、ジューッとかけて出来上がり。
それを、アツアツのご飯にかけて、食べる。
「激うま〜っ!!」
と言って彼女は、両手で口元を覆い、激しく足踏みをした。
そんなに美味しいのか!
海の町の、素朴な激旨料理の話に、またもや憧れを抱いた。
未だに、その激旨を口にしていないが、
「海の彼方」の思いと相まって、
いつか、きっと、その味をものにしてみせる、と
強く心に誓うのだった!