呼吸のように・・・

俳句のエッセー

薔薇の香水をいただいたことがある。

なんでも、本物の薔薇から作られたそうだ。

欧州のお土産で、地場産業のようなものらしく、
細長い小さな瓶が、いかにも素朴な感じがした。

ある朝、ちょっと試してみた。
薔薇とはこんな香りがするのか、正直そう思った。

そのまま、化粧台に向かう。
いいお天気なので、窓を10センチほど開けると、庭に椿が見えた。
葉っぱが日差しにつやつやしている。

余り手入れをしていないけれど、命はたくましいなと思う。

と、その時、たった10センチの隙間から、
真っ直ぐに、ふーっと何かが飛んできて、左頬がチクリと痛んだ!

とっさに払い落す。
すると目の前に、なんと黄色と黒の縞々が、のたうち回っている。
体長5センチもあろうかという蜂だった!

たった10センチである。
たった10センチの隙間を、庭のどこかから、
真っ直ぐ、迷わず、私に向かって飛んできたのである。

なるほど、薔薇の香りの威力であろう。
「薔薇の香り」というが、これほど引き寄せてしまうものなのか。

蜂が、迷いもせず、目標物に向かって来たのである。

この香水は、間違いなく本物の薔薇から作られていたことが、
これで明らかとなった。

と、そんなことを言っている場合ではなかった。
私はすぐに病院に走った!
おかげで熱は心配するほどではなかったが、その夜、左頬は腫れあがり、
しばらくは、針痕が陥没したまま残っていた。

私は、
本物の花から作られた香水は、絶対、買わないことにした…