桃の葉の吸ひ込まれゆく山羊の口 沢木 欣一
(もものはの すいこまれゆく やぎのくち)
昭和21年の作品。
思わず目を見張りました。
山羊の口に吸いこまれる桃の葉とは、見事な表現です。
山羊が桃の葉を食んでいるところですが、
シュレッダーに紙が吸い込まれるかのように
桃の葉が山羊の口へ入っていったのでしょう。
眠そうな山羊の表情も目に浮かぶようで、面白い作品です。
ただの葉ではなく、「桃の葉」というところに心が動きます。
桃の葉とくれば、その美しい花や実を思い浮かべない人はないでしょうし、
その印象的な花や実を思わせて、葉を詠みます。
眼目は、「吸い込まれゆく葉」ですが、
その葉が、桃の葉であるゆえに、
その意外性がこの句を強いものにしているでしょう。
人には鑑賞に値する花も、美味しい実も、
山羊には、食料対象ではないという驚きが、
この句を生み出しました。
桃は、桜と同じように、
花が咲き終えてから葉が萌えて、
実がなるころに、実を守るかのように
大きな葉が重なり合います。
『沢木欣一集』によると、昭和21年は「風」創刊の年。
欣一26歳。
この師系の末端に繋がる私は、誇りに思うとともに、
我が身を恥ずかしく思う一句であります。