眼を瞑る和上に春の立ちにけり 泊 康夫
句集『麦星』より。
「和上」は、唐招提寺、鑑真和上像でしょう。
立春の、まだ肌寒さを感じる頃、
ふくよかな瞼を閉じている和上の像を仰ぎみて、
春の訪れを思いました。
春の気配は、空、雲、そして風に含む
かすかな水の匂いにさえも感じ取ることができます。
松尾芭蕉の俳句、
「青葉して御目の雫ぬぐはばや」
を思い出しますが、こちらは、
鑑真和上の身の上の悲しさを、そのまま表現しているのに対し、
掲句は明るい春を対照に置き、むしろ哀愁を感じさせています。
春は、その明るさの一方で、愁いを思う季節でもあります。
その陰影を伴うまぶしい季節の到来を、
鑑真和上の像を以て言い表しているのではないでしょうか。
泊 康夫(本名 康男)昭和4年~平成20年
第四高等学校 理科乙類を経て、金沢医科大学(現金沢大学医学部)を卒業。
医学博士。金沢大学講師、後、北陸中央病院院長。
「風」同人。「雉」創刊同人。
富山高志句会、雉金沢句会設立。
俳人協会会員。