呼吸のように・・・

俳句のエッセー

無言館2

 パレットに乾びし朱色春浅き   田島 和生

こちらの季語は「春浅き」。
自画像の句と比べて、若干、暖かさを感じさせる句です。
パレットに乾ききっている朱の色は、
もちろん、もう使われることはありません。
その朱色の持ち主は、もう帰ってはきません。
それでも、あきらめきれず待ち続ける人の心を写すように、
そのままの姿で、絵具はパレットに残っています。
もう、こんなに乾いてしまったよ。
いつ戻ってくるの…いや、戻っては来ないのだったね。
また、春が来て、真っ白な雪の世界に色が戻ります。
描きたかった朱の色は、目の前に溢れて来ます。
朱の色は、あなたの血の色に似ています。
自然は、再び生気に満ちて、あなたの血潮の色を取り戻しているというのに、
あなたのパレットの朱色は、乾いたままです。
あなたの描きたかった春は、もうすぐそこ、
朱の色は、それを見つめる作者の思いを写し、
熱く、そして、悲しく乾いているのでしょう。